賢慮の学校における「イノベーション」の定義

賢慮の学校における「イノベーション」の定義

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第3回は、賢慮の学校における「イノベーション」の定義についてお伝えします。私は、これまで学際的にさまざまな領域を研究してきました。経営者インタビュー等の起業家教育や産官学民金連携への取り組みを通じ、イノベーションの必要性と可能性を感じています。と同時に、20年以上にわたり大学教育に関わってきた私は、現在の大学教育に疑念も抱いています。今の縦割りで硬直した日本の大学教育では、日本社会や日本人に将来はないとさえ感じます。本サイトに掲載するコラムでは、日々の私の活動や考え、アイデア、構想などの他、起業家・経営者インタビューやイノベーションに関連するハッカソン・ピッチ等のイベントレポート、アクセレーションプログラムやVC・金融機関の紹介、イノベーションの事例などを執筆していきます。やがて本サイトが「イノベーションの百科事典」として社会の役に立てばと思います。

社会変革課題か、社会課題か

賢慮の学校が考えるイノベーションの定義は、単に「社会課題」か、あるいは「社会変革課題」かという問いに対して、後者だと考えます。社会課題とは、現状の社会において問題となっている事象や状況のことであり、それらを解決するために必要な施策や技術のことです。例えば、貧困や環境問題、医療や教育などが社会課題の代表的な分野です。社会課題に対しては、既存の枠組みや制度、価値観に沿って改善や改革を行うことが多いでしょう。

一方の社会変革課題とは、現状の社会では解決できないような根本的な問題や課題のことであり、それらを解決するためには社会全体の構造やシステム、人間の思考や意識も変えていく必要があります。例えば、人口減少や高齢化、ジェンダーや多様性などが社会変革課題の代表的な分野です。社会変革課題に対しては、既存の枠組みや制度、価値観を超えて創造的かつ革新的なアプローチが求められます。

つまりイノベーションとは、特定の商品やサービスなどの部分的な変革ではなく、社会全体や人間の思考、意識も変えていくような大きな変革のことだと賢慮の学校では考えます。イノベーションは社会変革課題に挑戦することで生まれるものであり、その過程で新しい価値や意義が創出されるものです。イノベーションは単に技術的な進歩や経済的な成長だけではなく、人間性や文化性も高めるものです。

イノベーションを起こすためには、ニーズとシーズを近づけることも必要です。ニーズとは、市場や消費者が求めているものや欲しているもののことであり、シーズとは、技術や知識が提供できるものや可能にするもののことです。ニーズとシーズが一致する場合は幸運ですが、そうでない場合はどちらかを変える必要があります。ニーズを変える場合は、市場や消費者に新しい価値や意義を提案することで、シーズに合わせることです。シーズを変える場合は、技術や知識を発展させることで、ニーズに応えることです。

イノベーションは偶然の一致や偶発だけには頼れません。意図的な偶発、計画的な偶発を起こしていく必要もあります。意図的な偶発とは、自分の思考や行動を変えることで、新しい発見や出会いを引き寄せることです。計画的な偶発とは、さまざまな人や情報と交流することで、新しいアイデアやインスピレーションを得ることです。意図的な偶発や計画的な偶発を起こすためには、自分の興味や関心を広げたり、自分の知らない分野や人に触れたりすることが必要です。

また、イノベーションはあくまでも手段であり、イノベーションが目的になってはいけません。イノベーションの目的は何か? それは社会の幸福度や生活の質を向上させること、地球民として社会をより良くしていくことだと考えます。イノベーションが社会にもたらす影響や効果を常に考えることが必要です。イノベーションが社会に負の影響や副作用を及ぼす可能性もあるでしょう。イノベーションにはリスクや責任が伴いますから、イノベーションを行う人や企業は、そのリスクや責任を認識し、対処する能力も持たなければなりません。

イノベーションの種を発見するためにはローカライズも必要

なぜ昨今、日本企業あるいは日本人によるイノベーションが起こりにくいのか?

その一つの理由は、ローカライズが足りないからではないでしょうか。日本企業は海外市場に進出する際に、現地の社会課題や文化を十分に理解していないことが多いと感じます。海外赴任させても短期間で帰国させてしまうことも問題です。もっとどっぶり浸かって現地化していかなければ、現地の社会課題や商習慣、宗教、文化を深く理解できません。日本企業の人事制度にも問題があるのかもしれません。日本企業の「日本で成功させてから海外へ展開する」という発想も貧弱です。現地のことを深く理解せず、プロダクトプッシュ型で進出してしまうと、現地の人に受け入れてもらえないでしょう。

ローカライズとは、単に言語や通貨の変換だけではなく、価値観や感性の変換も含みます。例えば、インドでは牛肉は食べられませんが、日本では牛肉は人気の食材です。このような違いを無視して同じ商品やサービスを提供しても、受け入れられません。また、中国では赤色は幸運や喜びを表す色ですが、日本では赤色は危険や警告を表す色という印象も強いです。このような違いを無視して同じデザインやマーケティングを行っても、効果がありません。ローカライズとは、現地のニーズや嗜好に合わせてカスタマイズすることです。

ローカライズはイノベーションの源泉でもあります。現地の社会課題や文化に触れることで、新しいアイデアやインサイトが得られることがあります。例えば、アメリカのApple社は中国市場においてWeChatというメッセージングアプリに対抗するために、iMessageにQRコード機能を追加しました。これは中国人がQRコードをよく使っていることに気づいたからです。また、日本のソニー社はインド市場においてテレビの音質を改善するために、ウーファー付きリモコンを開発しました。これはインド人がテレビで音楽を聴くことが多いことに気づいたからです。ローカライズとは、現地の特徴や習慣を活かして差別化することです。

ローカライズはグローバルな市場で競争力を高めるためにも必要です。現代の世界はグローバリゼーションの進展により、国境や地域を越えて商品やサービスが流通するようになりました。しかし、それだけではなく、ローカライゼーションの進展により、国や地域ごとに商品やサービスが多様化するようにもなりました。グローバルとローカルの両方に対応できる企業や個人が求められています。グローバルとローカルのバランスをとることができるかどうかが、イノベーションの成功の鍵となります。

さまざまな思考や人・企業を巻き込んでイノベーションを誘発する

イノベーションを起こすためには、どう考え、どう捉えるかが重要です。私たちは普段、自分の経験や知識に基づいて物事を判断したり、問題を解決したりします。しかし、それだけではイノベーションは生まれません。イノベーションは、既存の枠組みや常識を超えて新しい価値や意義を創出することです。そのためには、自分の思考や視野を広げることが必要でしょう。

自分の思考や視野を広げる方法の一つは、さまざまな思考法を取り入れてみることです。例えば、量子的思考とは、物事を二元的に分けるのではなく、多元的に捉えることです。物事には常に複数の可能性や視点があります。量子的思考をすることで、物事の本質や相互関係に気づくことができます。また、アート思考とは、物事を感性的に表現することです。物事には常に感情や感動があります。アート思考をすることで、物事の魅力や価値に気づくことができます。さらに、デザイン思考とは、物事をユーザー目線で改善することです。物事には常にニーズや課題があります。デザイン思考をすることで、物事の解決策や提案に気づくことができます。

これらの思考法は一例に過ぎません。他にもさまざまな思考法があります。例えば、システム思考やロジカル思考、クリティカル思考やクリエイティブ思考などです。これらの思考法は互いに矛盾するものではありません。むしろ、互いに補完するものです。私たちはこれらの思考法を自由に組み合わせて使うことができます。思考は、ある意味ではスパイスのようなものです。どう混ぜたら化学反応が起こるかを思考実験してみましょう。思考実験とは、自分の頭の中で仮説を立てたり、シミュレーションを行ったりすることです。思考実験をすることで、新しいアイデアやインサイトが得られることがあります。

イノベーションを起こすためには、さまざまな思考だけでなく、さまざまな人や企業も巻き込むことが必要です。イノベーションはベンチャー企業・スタートアップ企業だけのものではありません。イノベーションは社会全体の変革であり、社会全体の協力が必要です。イノベーションには資金の問題もありますが、それだけの問題ではありません。イノベーションには技術やビジネスモデル、産業化、採用、法律など多くの課題があります。それらを解決するためには、周囲の人や企業、行政、金融機関などすべてを巻き込んでイノベーションを誘発することが必要です。

周囲の人や企業と協力するためには、ヒトモノカネ、情報・知識・技術という経営資源を活かすことが必要です。ヒトとは、自分以外の人間のことであり、彼らには自分にない知識やスキル、経験やコネクションがあります。彼らと交流したり、協力したりすることで、自分の能力や可能性を高めることができます。モノとは、自分以外の物質的なもののことであり、それらには自分にない機能や特性、価値や意味があります。それらを利用したり、組み合わせたりすることで、自分の作品やサービスを向上させることができます。カネとは、自分以外の財務的なもののことであり、それらには自分にない資金や投資、収益や利益があります。それらを獲得したり、運用したりすることで、自分の事業やプロジェクトを発展させることができます。情報とは、自分以外の知識的なもののことであり、それらには自分にないデータやニュース、トレンドやインサイトがあります。それらを収集したり、分析したりすることで、自分の判断や提案を強化することができます。

これらの資源を組み合わせ、融通し合い、自助だけでなく、公助・共助でより良い社会を実現していく。そんな人材を、賢慮の学校では輩出していきたいと考えています。

また、イノベーションに関連するアクセレーションプログラムやハッカソン、ピッチなどは各地で開催されています。例えば、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のようなものもあります。それらのプログラム等を有効に活用し、賢慮の学校とのシナジーを図っていきたいと思います。

参考:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)概要

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