日本の現在の大学教育に限界をみた私が、イノベーションに着目した理由

日本の現在の大学教育に限界をみた私が、イノベーションに着目した理由

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第1回は、私がイノベーションの必要性を強く感じる理由についてお伝えします。私は、これまで学際的にさまざまな領域を研究してきましたが、経営者インタビュー等の起業家教育や産官学民金連携への取り組みを通じ、イノベーションの必要性と可能性を感じています。と同時に、20年以上にわたり大学教育に関わってきた私は、現在の大学教育に疑念も抱いています。今の縦割りで硬直した日本の大学教育では、日本社会や日本人に将来はないとさえ感じます。本サイトに掲載するコラムでは、日々の私の活動や考え、アイデア、構想などの他、起業家・経営者インタビューやイノベーションに関連するハッカソン・ピッチ等のイベントレポート、アクセレーションプログラムやVC・金融機関の紹介、イノベーションの事例などを執筆していきます。やがて本サイトが「イノベーションの百科事典」として社会の役に立てばと思います。

なぜイノベーションに着目したのか

なぜイノベーションに着目したのか?その理由をいくつか挙げたいと思います。

まず、今の延長では日本社会や日本経済が沈んでしまうのではないか、相当危ないのではないかという危機感を持っていることです。そう思っている人は決して私だけではないでしょう。かつては、ソニーやホンダなどの日本企業がグローバルにイノベーションを起こし、世界をリードしていました。しかし、今はアメリカや中国、インド、北欧、シンガポールの企業の方がイノベーションを起こしています。なぜ日本ではイノベーションが起きなくなったのか?この問題についても、本サイトで深掘りしていきたいと思います。

私のこれまでの、経営学、民俗学、ジェンダー・ダイバーシティ論等の各研究や、経営者インタビュー等の起業家教育や産官学民金連携への取り組み等の活動から、「イノベーションが社会全体を変える力を持っている」と確信し、残りの人生をイノベーションの種まきに費やし、次世代のためにもそれらの種を育てていきたいという想いに至りました。このようなコラム執筆も、イノベーションの種まきの一環です。

イノベーションに着目した次の理由として、今までの社会の仕組みが錆び付いてきていると感じていることが挙げられます。この錆び付きは、制度疲労とも呼べるでしょう。最近の新型コロナウイルス感染拡大から起こったテレワーク・リモートワークの普及やDX推進等の社会の流れも含め、今が社会の変わり目であると感じます。これは、明治維新くらいの大きな変化かもしれない。社会全体の仕組みが、今まさに大きく変わりつつあるわけです。社会変革は、イノベーションを介して起こるでしょう。

つまりイノベーションは、「技術革新」ではありません。日本語に訳されたときの誤解を引きずっているのではないでしょうか。イノベーションとは、「社会革新」。新しい技術やサービスによって、社会をより良く変えていくことです。技術やサービスだけでなく、政策やルールのイノベーションも必要不可欠です。

そもそもイノベーションの概念を世に出したのは、オーストリアの経済学者であるヨゼフ・シュムペーター(1883-1950)です。シュムペーターは、イノベーションの本質は「経済システムが自らを時間的に変化させる力にある」としました。シュンペーターの示したイノベーションの例は、「新しい財貨(新製品など)の生産・販売」「新製法の導入」といった技術に関わるものに留まりません。「新しい販路の開拓」「原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得」「新しい組織の実現」といった、技術以外のものも含んでいます。

私はさらに踏み込み、「イノベーションだけではダメで、政策の革新やビジネス化してシーズをニーズとつないで、経済的価値を高めること。そして、それらが人間の生活の基盤となる個々人の安全保障や人類の福祉に資するものにしていく過程が重要であると考えます。単なる技術革新ではなく、日々の活動を目的に合わせて最大化していく一連のプロセスをつくっていく。それをみなさんと一緒になって考え、共創していきたいのです。

私は、イノベーションは日々のものの見方・考え方を変える、日々の見直し、思考法の更新にあると思っています。そのためには、新しい技術やサービス、政策、ルールだけでなく、新しい考え方や価値観も重要です。起業家だけでなく私たち一人ひとりが、イノベーションを起こす力を持ち合わせているわけですから、だれしもがイノベーターであり、イノベーションの種まきができる。「いつでもどこでも だれでもイノベーション」です。そんな参加型のイノベーション創出プラットフォームをみなさんとつくっていけたらと思います。

ボトムアップのイノベーションとトップダウンのイノベーション

前述のとおりイノベーションとは、新しい技術やサービス、ビジネスモデル、社会の仕組みなどを生み出す社会革新です。イノベーションには、トップダウンとボトムアップの2つのタイプがあるとしましょう。トップダウンのイノベーションは、政府や企業などの上層部から発信されるイノベーションです。一方でボトムアップのイノベーションは、市民や企業の現場から発信されるイノベーションです。

トップダウンのイノベーションは、社会に大きなインパクトを与えることができます。しかし、プロセスが多くて時間がかかり、実行が難しいというデメリットもあります。ボトムアップのイノベーションは、スピーディーに実行することができるでしょう。しかし、社会へのインパクトは小さい可能性が高いという面があります。どちらのイノベーションも社会をより良く変えるために必要ですから、優劣があるということはありません。

日本は、比較的だれでも起業しやすい国になりました。しかし、起業件数はそれほど増えていません。これは、ボトムアップのイノベーションが十分に起こっていないことが原因の一つと考えられます。

賢慮の学校では、ボトムアップのイノベーションとトップダウンのイノベーションの両方を誘発していくことで、日本社会をより良く変えていきたいと考えています。

ボトムアップのイノベーションを起こすためには、次のようなことが必要でしょう。

・自由な発想を促す環境を整える
・失敗を恐れずに挑戦できる環境を整える
・失敗から学ぶことができる環境を整える
・他者の成功や挑戦を称賛する文化を育む
・過去の学びにとらわれない(アンラーニング)
・これまでと見方を再構築する(リフレーミング)

また、トップダウンのイノベーションを起こすためには、次のようなことが必要であると考えられます。

・イノベーションを推進するリーダーを育成する
・イノベーションを起こすためのさまざまな人材を育成する
・イノベーションを起こすための資金を提供する
・イノベーションを起こすための制度を整える

イノベーションの土壌づくりを賢慮の学校で

イノベーションは、社会をより良い方向に変えていくための原動力です。イノベーションを起こすためには、さまざまな意見やアイデアを集め、それらが自由に交わされる土壌が必要でしょう。

しかし現状では、イノベーションを阻害する要因がいくつかあります。一つは、意見やアイデアを拾い上げてくれる仕組みや環境が整っていないこと。また、技素晴らしい技術やサービスがあっても、規制によって実現できないこともあります。政策と新しい技術やサービスが合致すれば、一気に進むこともありますから、政策やルールのイノベーションも必要ということになるわけです。

もう一つの課題は、イノベーションを推進する主体が分散していることです。ハッカソンやピッチ、アクセレーションプログラムなど、イノベーション支援関連のイベントやコミュニティはたくさんありますが、それらが分断・分散しています。イノベーターたちが切磋琢磨し助け合うためには、これらのイベントやコミュニティをつなげていく必要があるでしょう。

賢慮の学校は、イノベーションの土壌づくりを目的として、すでにあるイノベーター・スタートアップベンチャー支援関連のイベントやコミュニティ同士を繋げていきます。分断してバラバラにイノベーター・スタートアップベンチャーを支援するのではなく、イベントやコミュニティ同士を越境・相互交流することで、イノベーションを起こすための土壌を育てていきます。

イノベーションを具体化するための答えは、意外と身近なところにあるかもしれません。異なるもの同士を結び付けていくこともイノベーションには必要です。日本の中小企業や大学の研究室に眠っている技術にも、潜在的ニーズやイノベーションの種があるかもしれない。知られざる技術や異なるもの、既存のもの同士を結びつけるためには編集工学が必要不可欠で、これを学べる教育機関は日本にはあまり見られません。

賢慮の学校で、イノベーションを起こすさまざまな人材を育て、人や場の可能性を引き出し、物事を成し遂げるイネーブラーを輩出します。イノベーションの土壌づくりに取り組み、世界をより良い社会に変えていく助けになればと思います。

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