第5回は、「エネルギーの安全保障」のためのイノベーションについてお伝えします。「安全保障」と聞くと軍事や国防を連想しがちですが、賢慮の学校では、「エネルギーの安全保障」「食の安全保障」「経済の安全保障」「人間の安全保障」「次世代の安全保障」「グローバルの安全保障」…と、分野別に安全保障について論じていきます。多様な分野を知ることで、多重視点を身につけていきます。現在、多くのイノベーションは“well-being(ウェルビーイング)”という視点で進められていますが、根本の安全や生命の安全があってこそのwell-being(ウェルビーイング)です。安全保障なくして、well-being(ウェルビーイング)もhappiness(ハピネス)もありません。賢慮の学校は空想的well-being(ウェルビーイング)ではなく、実態の伴うwell-being(ウェルビーイング)を目指したいと思います。
エネルギー問題とは
エネルギー問題とは、私たちの生活に欠かせない電気やガスなどのエネルギーを、安全かつ安定的に供給することができるかどうかという問題です。エネルギー問題は、国際政治や経済、環境などさまざまな要因に影響されます。また、エネルギー問題は日々の生活コストにも影響を及ぼします。電気代やガス代の値上がりという問題だけではなく、製造業やサービス業のコストが上がり、結果的には製品やサービスの価格も上がることになります。エネルギーを安定かつ低コストで確保することは、私たち地球民の生活コストを抑えることにもつながるわけです。
ご存知のとおり日本は資源の少ない国であり、エネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼っています。特に化石燃料(石油、石炭、天然ガス)に大きく依存しており、その多くを中東地域から調達しています。しかし、化石燃料は温室効果ガスの排出源であり、地球温暖化の原因となっています。また、中東地域は政情が不安定であり、原油価格も大きく変動します。このように、化石燃料への依存は日本にとって多くのリスクを抱えることになります。
一方で、日本は1970年代のオイルショックを教訓にして省エネルギー対策に取り組んできました。その結果、日本のエネルギー利用効率は世界平均を大きく下回る水準にまで改善されました。しかし、それでも日本はエネルギー消費大国であり、エネルギー自給率は11.8%と極めて低い水準です。
2011年の東日本大震災による福島第一原発事故以降、日本では原子力発電所の稼働が停止しました。原子力発電所は温室効果ガスを排出しない電源であり、震災前は電源別発電量の約30%を占めていました。しかし、震災後はその減少分を化石燃料で補う必要がありました。そのため、日本の温室効果ガス排出量は増加しました。
このように、日本はエネルギー問題を解決するためには、化石燃料への依存を減らし、再生可能エネルギーや原子力発電など多様な電源を活用する必要があります。また、さらなる省エネルギーや脱炭素化も重要な課題です。
出典:
日本が抱えているエネルギー問題|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
日本が抱えるエネルギー問題とは? 現状と課題をわかりやすく解説|でんきナビ|Looopでんき公式サイト
2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」
エネルギー問題とイノベーション
2022年から2023年にかけては、ロシアによるウクライナ侵略やアメリカの中東への関与の変化など、国際的なエネルギー市場に混乱が生じました。これにより、世界的にエネルギー価格が高騰しています。日本はエネルギー安全保障を確保するために、さまざまな取り組みを行っています。例えば、中東諸国との友好関係の発展や、産油国と消費国の対話と連携を重視し、対話を促進するなどの取り組みを行ってきました。また、エネルギーの輸入先やエネルギー源の多様化にも努めています。アジア諸国と連携したLNG開発への投資や、危機が起こったときの協力などを検討するとともに、生産国への増産の働きかけも実施しています。さらに、原子力発電所についても対策が行われています。安全性を確保するために新規制基準に基づく審査を受けた原子力発電所は再稼働される予定です。また、原子力発電所の廃炉や放射性廃棄物の処分に関する計画も策定されています。
エネルギー安全保障は、経済発展や環境保全を考慮に入れた上でエネルギー供給のために必要な投資を適宜行うことまでを目指すものです。日本がエネルギー安全保障を確保するためには、どのようなエネルギーのあり方が望ましいのか? 再エネは、原子力発電は、どのように使われるべきなのか? 私たち一人一人が考えていかなくてはならない課題です。
エネルギー問題と安全保障は、私たちの生活に密接に関わる重要なテーマです。エネルギー問題を解決するためには、イノベーションが必要でしょう。イノベーションは、エネルギーの効率化や多様化、脱炭素化などを促進し、エネルギー安全保障を強化することができます。
実は日本はイノベーション大国であり、エネルギー分野でも多くの優れた技術やサービスを生み出してきました。例えば、省エネルギー技術や再生可能エネルギー技術、水素エネルギー技術などがそれにあたります。しかし常に新しい課題やニーズに応えるために、イノベーションを継続的に創出することが求められます。
イノベーションを創出するためには、多様な人材や組織が協力し合うことが必要です。学術界や産業界だけでなく、政府や地方自治体、市民団体やNPOなども関わることで、より幅広い視点や知見を持つことができます。また、国内だけでなく海外とも連携することで、グローバルな規模でイノベーションを推進することができるでしょう。
エネルギー問題と核融合発電
私たちの生活に欠かせないエネルギーは多くの場合、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料や、ウランなどの原子力燃料が使われています。しかし、これらのエネルギー源には大きな問題があります。化石燃料は温室効果ガスを排出し、地球温暖化の原因です。原子力燃料は放射性廃棄物を発生させ、安全に保管する必要があります。また、これらのエネルギー源は有限であり、将来的に枯渇する可能性があります。
では、代替となるエネルギー源はないのでしょうか。太陽光や風力などの再生可能エネルギーはクリーンで持続可能ですが、天候や地理的条件に左右されやすく、安定的な供給が難しい場合があります。そこで注目されているのが核融合発電です。核融合発電とは、太陽でエネルギーが作られている仕組みを人工的に再現する技術。軽い原子核を高温・高圧下で結合させることで、大量のエネルギーを放出させます。
核融合発電には多くのメリットがあります。まず、化石燃料や原子力燃料と違って温室効果ガスや放射性廃棄物をほとんど発生させません。そのため、気候変動や放射能汚染の問題を解決することができます。次に、核融合発電に必要な水素やリチウムは海水や地殻から比較的容易に抽出できます。そのため、資源の枯渇や価格変動の心配が少なくなります。さらに、核融合発電は天候や地理的条件に左右されず、安定的かつ大規模なエネルギー供給が可能です。
しかし、核融合発電にも課題はあります。最大の課題は実用化です。核融合反応を起こすためには非常に高温・高圧な環境を作り出す必要がありますが、これは技術的にも経済的にも困難です。2022年から2023年にかけてアメリカやヨーロッパで核融合実験で画期的な進歩が報告されましたが、それでもまだ投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを取り出すことはできませんでした。大規模な核融合発電所の建設には数十年もかかると見られています。
核融合発電はエネルギー問題の解決に向けて、新しい可能性を示しています。しかし、それだけに頼ることはできません。エネルギー問題は、あらゆる生活コストに影響する重要な課題です。生活コストを抑えることが安全保障につながります。私たちはエネルギーの効率化や節約、再生可能エネルギーの活用など、さまざまな方法でエネルギー問題に取り組む必要があります。核融合発電はその一つの手段ですが、それだけではなく、私たち一人ひとりがエネルギーのあり方を考えることが重要です。
出典:
【解説】 画期的進歩が続く「核融合」、どういうものなのか – BBC
米エネルギー省、核融合技術で「画期的進歩」 投入量上回る