なぜ「賢慮」の思考と行動が必要なのか(現代編Ⅰ)

なぜ「賢慮」の思考と行動が必要なのか(現代編Ⅰ)

Table of Contents

賢慮とは、深い知識と洞察力を持ち、相手を慮りながら未来を見据えて行動する姿勢を意味します。この概念は、個人や組織が持続可能な未来を築くための基盤として重要です。本稿では、前回の古代中国・古代ギリシャ編に続き、賢慮の現代的意義について考察し、関連する書籍を紹介します。

野中郁次郎の賢慮型リーダーシップ

野中郁次郎は、組織内の知識創造プロセスを理論化したことで知られています。野中郁次郎らの著書である『知識創造企業』は、日本企業の成功要因を分析し、知識が組織の競争優位性を構築する重要な資源であることを示しました。本書では、暗黙知と形式知の相互作用を通じた知識の創造プロセスが詳述されており、賢慮を持つリーダーシップの重要性も強調されています。野中郁次郎は、これを「賢慮型リーダーシップ」と表現しています。

『知識創造企業』(野中郁次郎 竹内弘高 著、梅本勝博 翻訳 東洋経済新報社)

問いかける力の重要性

世界情勢や環境問題は、悪化の一途をたどっています。そのため、現代においても賢慮が重要視されていると言えるでしょう。私たちが直面しているさまざまな課題は、個別の解決策だけでは対応できません。賢慮を持って未来を考え、自分たちの未来のために、そして次世代の未来ために持続可能な解決策を見出すことが必要です。

特に重要なのは、「自分はどう生きたいか」「世界、社会をどう自分たちでつくっていくか」を、自分自身や相手、社会に対して問いかけ続ける姿勢です。この連続性のある問いかけが、個人や組織、社会が持続可能な未来を築くための第一歩となります。今後は「問う力」がますます重要になるでしょう。

ピーター M センゲは、組織学習の分野で著名な研究者であり、センゲの著書『学習する組織――システム思考で未来を創造する』は、組織がどのようにして学び、変化し続けるかを探求しています。センゲは、組織が成長し続けるためには、全員が学び続けることが不可欠であり、その過程で賢慮が重要な役割を果たすと述べています。彼の提唱する「システム思考」は、複雑な問題を理解し、組織が持続的に進化するための基盤を提供します。

『学習する組織――システム思考で未来を創造する』(ピーター M センゲ 著、枝廣淳子 小田理一郎 中小路佳代子 翻訳 英治出版)

対話からはじまる賢慮の実践

賢慮を実践するためには、他者との対話が欠かせません。「自分はこう思う。あなたはどう思う?」と問いかけ合い、互いの意見を尊重しながら中間支援を行うことが賢慮の基本です。これは、どちらかが正しいかどうかという正解や結論を求めるのではなく、双方が納得できる解決策を見つけるためのアプローチです。

対話の背景には、経済力や軍事力も考慮する必要があります。ただ単に対話を進めるだけでは未来は良くなりません。現実的な力関係を理解しつつ、賢慮を持って関与することが求められます。また、歴史や文化、宗教などの背景を知っていなければ、相互理解は進みません。お互いを深く知るためにも、今こそ対話が必要なのです。

ジョゼフ・ナイは、国際政治における「ソフト・パワー」という概念を提唱したことで知られています。ソフト・パワーとは、文化や価値観、政策の魅力を通じて他国を影響する力を指します。ナイは、賢慮を持った外交がどのように国際関係を平和的に導くかを解説し、軍事力に頼らない関係構築の重要性を強調しているのです。彼の著書『ソフト・パワー: 21世紀国際政治を制する見えざる力』では、21世紀の国際政治における新しい力の形が探求されています。

『ソフト・パワー: 21世紀国際政治を制する見えざる力』(ジョセフ S.ナイ 著、山岡洋一 翻訳 日本経済新聞出版)

賢慮をもって1000年先の未来と向き合う

世代を超え、若い世代や現役世代、シニア世代などの幅広い世代が対話しなければ、具体的な未来を描くことができません。賢慮をもった思考と行動は、世代を超えた交流を促進します。幅広い世代が共に未来を考え、次世代やその先の未来のために何ができるかを真摯に考えることが必要です。50年後、100年後の未来はぼんやりと予測可能かもしれませんが、1000年後を見据えるためには、さらに深い賢慮が必要でしょう。私たち一人ひとりが賢慮をもって行動することで、より良い未来を創造することができます。

ユヴァル・ノア・ハラリは、歴史学者としての視点から人類の進化と未来を考察しています。ハラリの著書『サピエンス全史』は、人類の歴史を包括的に分析し、我々が直面する未来の課題を探求しています。ハラリは賢慮を持つことが、技術の進化や社会の変化に対応するための鍵であると述べ、人類の歴史から得られる教訓を活かす重要性を訴えています。

『サピエンス全史 上: 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著、柴田裕之 翻訳 河出書房新社)

あなたなら、1000年先の未来をどう描きますか?

出典・参考:
『知識創造企業』(野中郁次郎 竹内弘高 著、梅本勝博 翻訳 東洋経済新報社)

『学習する組織――システム思考で未来を創造する』(ピーター M センゲ 著、枝廣淳子 小田理一郎 中小路佳代子 翻訳 英治出版)

『ソフト・パワー: 21世紀国際政治を制する見えざる力』(ジョセフ S.ナイ 著、山岡洋一 翻訳 日本経済新聞出版)

『サピエンス全史 上: 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著、柴田裕之 翻訳 河出書房新社)

Share:
More Posts

なぜ「賢慮」の思考と行動が必要なのか(現代編Ⅱ)

賢慮とは、深い知識と洞察力を持ち、相手を慮りながら未来を見据えて行動する姿勢を意味します。この概念は、個人や組織が持続可能な未来を築くための基盤として重要です。本稿では前回に続き、賢慮の現代的意義について考察し、関連する

「経済の安全保障」のためのイノベーション II

第8回は、「経済の安全保障」のためのイノベーション IIについてお伝えします。「安全保障」と聞くと軍事や国防を連想しがちですが、賢慮の学校では、「経済の安全保障」「食の安全保障」「エネルギーの安全保障」「人間の安全保障」

Facebook
Twitter
LinkedIn

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


上部へスクロール