賢慮とは、深い知識と洞察力を持ち、相手を慮りながら未来を見据えて行動する姿勢を意味します。この概念は、個人や組織が持続可能な未来を築くための基盤として重要です。本稿では前回に続き、賢慮の現代的意義について考察し、関連する書籍を紹介します。

イノベーションを促進する賢慮

『知識創造経営のプリンシプルー賢慮資本主義の実践論』という書籍では、賢慮を基盤にした経営の枠組みが提示されています。著者である野中郁次郎は、知識創造理論の第一人者であり、組織がイノベーションを創出するためには、単なる知識の集積だけでなく、賢明な判断と深い洞察が必要であると説いています。

野中氏の主張によれば、賢慮を持つ経営者は短期的な利益にとらわれることなく、長期的な視点から持続可能なビジネスモデルを構築し、新たな価値を生み出す力を持っています。これは、現代社会が直面する複雑な課題に対処するための重要な鍵となるでしょう。

賢慮による交渉のアート

『賢慮の世界史 国民の知力が国を守る』は、歴史的な視点から賢慮がどのように発展し、またどのように用いられてきたかを探る一冊です。この書籍では、賢慮を持ったリーダーたちがどのようにして効果的な交渉を行い、戦争や紛争を回避し、平和的な解決策を見出してきたかが紹介されています。

賢慮は単なる知識やスキルではなく、相手の立場を理解し、長期的な視野を持って関与することの重要性を強調しています。現代の外交やビジネス交渉においても、賢慮をもって対話を進めることが、持続可能な関係を築くための鍵となるでしょう。

著者の佐藤優は、元外務省主任分析官であり、外交や国際情勢に関する豊富な知識を持つ評論家です。また、岡部伸は、国際問題に精通したジャーナリストであり、歴史的視点からの考察に定評があります。両者は、賢慮を通じた国民の知力が、国家の未来を守るためにどのように重要であるかを詳述しています。

賢慮を育む教育と賢慮の学校の使命

賢慮は、単に個々人の特質として求められるだけでなく、組織や社会全体で育むべき資質でもあります。教育の現場では、知識の伝達にとどまらず、賢慮をもって考え行動する力を養うことが求められています。未来を担う世代に対して、いかに賢明な判断を下し、他者との協働を通じて持続可能な未来を築いていくかを教えることが、これからの教育の使命となるでしょう。

賢慮の学校では、「賢慮」の概念を中心に据え、知識の習得だけでなく、それをどのように活用し、社会に貢献していくかを学びます。賢慮の学校の目標は、社会の課題に対して賢明な解決策を見出し、持続可能な未来を築く人材を育成することです。このような教育が、個人と社会全体の賢慮を育む重要な手段となるでしょう。

賢慮の学校の使命は、ただ論ずるのではなく賢慮を実践することであり、個人の成長と社会の持続可能性の両立を目指しています。賢慮の学校を通じて、多くの人々が相手を慮る心を持ち、未来に貢献できるようになることを期待しています。

「相手がなにを考えているのか」「なぜ、そのような考えを持っているのか」「なぜ、そのような行動を取ったのか」を深く考えることが重要です。ここでいう「相手」は、自分以外の人間かもしれませんし、自分自身かもしれません。また、社会や自然かもしれません。

今を起点に、過去から未来まで時間軸を伸長し、地球や宇宙規模でリアルとバーチャルの空間を拡張し、自然物とも人工物とも分け隔てなく交流し、「間」の中で当事者意識を持つことが重要なのです。

あなたは賢慮をどうとらえ、どう未来にいかしますか？

出典・参考：
『知識創造経営のプリンシプル―賢慮資本主義の実践論』（野中郁次郎 紺野登 著　東洋経済新報社）

『賢慮の世界史 国民の知力が国を守る』（佐藤優 岡部伸 著　PHP研究所）