早稲田大学 基幹理工学部「企業行動と経営」講義レポート(2025年11月28日)「数学で社会を解き明かす:ニッチ市場の開拓とリスク管理の数学的思考」(和から株式会社 代表取締役・堀口智之氏)

早稲田大学 基幹理工学部「企業行動と経営」講義レポート(2025年11月28日)「数学で社会を解き明かす:ニッチ市場の開拓とリスク管理の数学的思考」(和から株式会社 代表取締役・堀口智之氏)

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早稲田大学理工学術院で行われている講義「企業行動と経営」。2025年11月28日の講義では、日本初の大人向け数学教室を創業した和から株式会社の代表取締役・堀口智之氏にご登壇いただきました。山形大学理学部で物理学を専攻し、23万円の資金で起業した堀口氏。かつては年収65万円の極貧生活や20種類以上のアルバイトを経験し、挫折や迷いの中にいた同氏が、いかにして「大人のための数学教育」というニッチな市場を切り拓き、ビジネスとして成立させたのか。

「数学をツールに、世界を客観的に捉える」ことの本質、そして予測不能な「超VUCA時代」を生き抜くための戦略的思考について、熱く語られた講義の模様をレポートします。

和から株式会社 公式サイト

23万円からの起業と「数学教育」への挑戦

堀口氏の起業は、決して華やかなスタートではありませんでした。2010年、日本で初めてとなる「大人専門の数学教室」を立ち上げた際、周囲からは「大人が数学なんて学ぶわけがない」と反対されたといいます。

手元の資金は、自己資金10万円に親族からの借入れを合わせたわずか23万円。しかし、このスモールスタートから4ヶ月で黒字化を達成しました。堀口氏は、かつて時給630円で働いたコンビニでのアルバイト経験や、年収65万円の「うまい棒で食いつなぐ」極貧生活を振り返りながら、お金の価値と「自ら稼ぐこと」の厳しさを学生たちに語りました。

転機となったのは、学生時代の休学中に参画したベンチャー企業(現・株式会社LITALICO)での経験です。障がい者の遠隔地雇用という、前例のない社会課題にビジネスで挑む姿を目の当たりにし、「己を忘れて他人に利益を与える(忘己利他)」という精神に目覚めたことが、現在の事業の原点となったそうです。

戦略とは、勝てるフィールドを選ぶこと

なぜ、既存の学習塾がひしめく中で「大人の数学」だったのか。そこには堀口氏の「戦略的思考」がありました。

「どれだけ努力するか(戦術)」の前に、「どこで戦うか(戦略)」が重要である。堀口氏は自身の高校時代の「競歩」の経験を例に挙げます。長距離走では最下位だった自分が、競技人口の少ない競歩に転向した途端、新潟県チャンピオンになったエピソードを引き合いに、「ライバルのいないブルーオーシャン(ニッチ市場)を見つけること」の重要性を説きました。

算数オリンピックに出場するような子どもたちを教える市場はレッドオーシャンですが、数学にコンプレックスを持つ大人や、ビジネスで統計学を必要とする社会人に特化すれば、競合はほぼ存在しません。この「場所を変えることで勝つ」という考え方は、キャリア形成においても極めて有効な視点です。

「数字に強い」とは、数字に「感情」を与えること

講義の後半、堀口氏はデータ分析のワークショップを展開しました。同氏の定義によれば、「数字に強い人」とは計算が速い人のことではなく、「数字に感情(意味)を与えられる人」を指します。

一例として示されたのは、日本の「凶悪犯罪」や「離婚件数」のデータです。

治安の認識と事実:

内閣府の調査では55%の人が「治安が悪くなった」と感じていますが、実際の凶悪犯罪件数は20年前の3分の1以下に減少しています。

離婚の「件数」と「割合」:

離婚件数自体は減少傾向にありますが、婚姻件数に対する「割合」で見ると35〜40%で横ばい。つまり、結婚する人が減っているから離婚件数が減っているだけで、離婚のしやすさ(構造)は変わっていないことが分かります。

このように、単一の数字に踊らされず、内訳や割合、背景にある構造を「クリティカル・シンキング(批判的思考)」で読み解くことこそが、不確実な時代を生き抜く武器になると強調しました。

うまくいかないことを前提に設計する「リスク管理」

経営において最も大切なことは「リスク管理」であると堀口氏は語ります。起業直後、4,000枚のチラシを手配りした際、40人の来客を想定していたのに対し、実際に来たのはわずか1人でした。

「起業はうまくいくようにやるのではなく、うまくいかないことがないように設計するもの」

社運を賭けた大博打を打つのではなく、想定外の事態(販売不振やパンデミックなど)が起きても致命傷を負わないよう、損益分岐点を把握し、多角化や保守的な計画を立てる。数学的思考に基づいた堅実な経営姿勢が、創業から15年続く同社の強みとなっています。

【学生たちへの課題:Googleトレンドによるトレンド分析】

講義終盤、学生たちへ「Googleトレンド」を用いて、自らが注目する社会動向を分析する課題が出されました。後日提出されたレポートからは、学生たちの洞察が見て取れます。

AI技術の覇権争い:

「ChatGPT」と「Gemini」の検索ボリュームを比較し、技術発表や社会実装のタイミングと検索の伸びが完全に一致していることを分析。

「Switch2」への期待:

任天堂の新型機に関するリーク情報の拡散と、期待値の高さがトレンドグラフに如実に表れていることを指摘。

社会価値の変化:

「終身雇用」への関心が薄れる一方で、「副業」や「フリーランス」の検索が圧倒的に増えていることから、若者の働き方に対する価値観の変化を読み解く学生もいました。

特定コンテンツの影響力:

スマホゲーム「白猫プロジェクト」のリリースにより、「猫」や「白」という一般的な単語の検索動向が数年間にわたってゲーム関連の文脈に「乗っ取られた」現象を分析するユニークな視点も提示されました。

担当教官からのコメント

今回の堀口社長の講演の目的は、一つは、起業という働き方・キャリアをどのように設計するのかをご自身の体験・経験通じて、生き方・人生の設計をすること。そのためにもリスク管理が重要であり、批判的思考を養って物事・社会に対する目を耕すこと。そしてもう一つは、そのためにも出てきた数字の見方を通して物事の動き、変化や影響力を考える視点・視界を養うこと。高不確実性のAIが必須とされる時代において、全体の構造をつかんでそのうえで思考していくことは文理を超えて一層重要度が増すことが必須となる、といったことがポイントだったように思います。

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